小ネタや更新記録など。妄想の赴くままに・・・
たくさんある。ぼくは気は長い方だけど、とても心が狭いから、たくさん、たくさんある。とあるジャッジやとあるタレントに殺意だって湧いたりする。某女子フィギュア選手は、来季もGPシリーズ欠場ですって。『休養が必要だから』というのがその理由。今季1試合しか出てなかった気がしますが。素直にプロになってアイスショーやってろよ。誰も行かないアイスショーだけどな。K国人は、彼女の演技が見たいんじゃなくて、『勝っている』彼女を見たいんだもんな。可哀想に。
さて。みき様のEX、特にレクイエムに大泣きした橘。女性の美しさと魂の高潔さを見せてくれたみき様や、震災のショックでものが食べられずに4~5キロも痩せて、落ちた筋力で足を痛めながらも根性で跳んだ真央たんに敬意を表して。
**********
表彰式から戻ってきたロザモンドを、シェラは笑顔で迎えた。
「シリルちゃん、おめで──」
おめでとう、と言おうとしたら、抱きしめられた。
力強い、けれどどこか労るような抱擁。
目をぱちぱちさせているシェラは、「シリルちゃん?」と声を掛けた。
それでもロザモンドは何も言わず、しばらくそのままシェラを抱きしめ続けた。
感動しているのかな、と思ったシェラは、そっとロザモンドの背中に手を回した。
背中を撫でてあげようか、と思っているとようやく世界女王が口を開いた。
「──・・・今日の祝賀会・・・出て、くれるか・・・?」
どこか心配そうな声音に、シェラは一瞬びっくりして目を瞠ると、次いで笑みを浮かべて大きく頷いた。
とはいえ、まだ抱きしめられた状態でロザモンドには見えないだろうから、ちゃんと口で言った。
「うん。もちろん!」
力強い返事をしたシェラに、ようやくロザモンドは腕の力を弱めた。
そうして、にこにこと笑っている仲間を見て口許を綻ばせた。
「おめでとう、シリルちゃん」
「・・・ありがとう」
もう一度、ロザモンドはシェラを抱きしめた。
その様子を遠巻きに見つめている男が3人。
「シリル嬢も、めろめろだな」
「戦友らしい」
苦笑したレティシアに、バルロが言った。
「あん?」
「ロザモンドは、シェラのことを『戦友』だと言っていた。だから、どうしても今日の祝賀会には出て欲しかったらしい」
「ふぅん。でも別に、あんな、『彼女にお伺いを立てる彼氏』みたいな態度で挑まなくても、出るだろ」
「結果が結果だからな」
「あ? あいつ普通に喜んでるぜ?」
「ロザモンドの結果じゃない。彼女自身のそれだ」
「あー・・・」
ぽりぽり、と頬を掻くレティシア。
「俺の眼で見ても、あの得点は納得いかない。少なくとも10点は」
「終わったことだ」
思うところがあるのか、ふつふつと込み上げてくるものを感じているらしいバルロに、ヴァンツァーが静かな声で言った。
途端にバルロが非難する顔つきになる。
「お前は、悔しくないのか?」
声こそ荒らげてはいないが、獰猛な虎が牙をむき出しにしている印象を与える表情だった。
だが、そんなものを気にするようなヴァンツァーではない。
いつも通り、秀麗な美貌には何の感情も浮かんではいない。
「悔しい? なぜ?」
「な・・・?」
どうして自分が問い返されるのか、バルロは困惑の表情を浮かべた。
「悔しいというのは、手が届きそうだったのに届かないから感じるものだろう? 最初から期待していないんだ。感じようがないな」
淡々と言う男に、バルロは眉を寄せた。
「・・・貴様・・・自分の育てている選手に、期待をしていない、だと・・・?」
今にも怒鳴りだしそうな様子のバルロの肩を、レティシアが笑いながら叩いた。
「違う、違う。まーまー、そう怒りなさんな」
「何が違うのだ」
レティシアにまで噛み付きそうな勢いのバルロ。
「たぶん、あんたと一緒だ。こいつは、点数が出ることを期待していなかった」
「・・・なに?」
「あんたの言うように、10点は低い点数だったと俺も思う」
「だったら」
「けど、そいつは最初からその程度だろうと思っていた」
「アクセルは調子を上げていたのだろう? サルコウだとて、ここ最近は」
「コンディションなんて関係ない」
バルロの言葉を遮るように、レティシアは若干語気を強めた。
「回りきっても、ダウングレードすることになってるんだ。決まるわけがねぇよ」
吐き捨てるような口調。
バルロは目を瞠った。
「・・・何だと・・・?」
「完璧に決まったらアンダーローテ、着氷が乱れたらダウングレード。そういうシナリオだ」
まぁ、今日のは特別酷かったけどな、とレティシアは唇を歪めた。
ジャンプの回転不足は、4分の1回転までは成功と認められる。
昨年度までは、4分の1回転に満たないものがダウングレードと判定された。
だが、今季から4分の1回転から2分の1回転まで足りないジャンプは、アンダーローテーションとして成功した際の7割の得点がもらえるようになっている。
2回転判定か3回転の7割かでは、まったく点数が違う。
「今日のアクセルはダウングレードだった。アンダーローテ以下だ──つまり、180度足りない判定、ってことだ」
「・・・・・・」
「跳んだのはアクセルだ。2分の1回転足りないんじゃ、前向きで着氷したってことだろ? 俺にはどうやっても、そんな風には見えなかったなぁ。どんなド素人が見ても、前向きに着氷しているようには見えないと思うぜ。そもそも、前向きに着氷してたら動きが次に繋がらない」
レティシアは肩をすくめた。
「最初から決めてるんじゃなきゃ、今のルールでは転倒しない限り、ダウングレードなんて判定はまずつかない」
180度足りないジャンプなど、跳べと言われても跳べるものではないのだから。
その証拠に、何十人という選手が出場しているこの大会で転倒せずにダウングレード判定を受けたのは、シェラの3Aとコンビネーションの3Tだけだ。
「それが最初から分かってるから、そいつは悔しくないんだとよ」
「馬鹿かっ!」
今度こそ、バルロは声を荒らげた。
振り返る関係者が何人かいたが、本人はまったく気にしていない様子だ。
「そういう問題ではないだろうが! それが事実なら然るべきところに」
「喚くな」
相手はいくつか年上だというのに、煩い男だ、という面倒くさそうな表情を隠しもしないヴァンツァー。
「近所迷惑だ」
その言語は少し違う気がするが、周囲にいた人間が何事か、と揃って振り返っているのは事実だった。
シェラとロザモンドも、目を丸くしてコーチたちを見ている。
「結果はもう出ているし、あの馬鹿は来季のことを考えている。だったら、それでいい」
「繰り返される可能性があるぞ」
「可能性じゃない。実際繰り返されてきている。あいつはもう何度も表彰台から蹴落され、跳んでも認定されない苦しみを味わった」
「──・・・・・・」
バルロははっとした。
それは、今のヴァンツァーの台詞が、ショートプログラム後に彼がロザモンドに言った台詞と重なったからだ。
不当な得点の操作。
ロザモンドの得点が下げられるにせよ、他の選手が上げられるにせよ、操作としか思えない得点は確かに表示されてきた。
そのために、ロザモンドは彼女が掴んで然るべき栄光がその手からすり抜けるのを何度も経験してきた。
怒り心頭に発した自分に、彼女は言った。
──わたしだけではない。
と。
みんなその時々で周囲の思惑に翻弄されている、と。
強い女だ、と思った。
転んでも転んでも、何度でも這い上がってくる。
泥だらけになりながらも、女王として立つ姿は勇ましく、また美しかった。
「それでも、あの馬鹿は跳ぶんだ。──『スケートが好きだから』・・・ただ、それだけの理由で」
ロザモンドも言った。
自分よりも、シェラの方が強いのだ、と。
何度虐げられ、踏みつけられ、叩きのめされても、スケートが好きだという気持ちを忘れずに、それだけを胸に、負けないでいられるのだから、と。
「だから、悔しくない」
ヴァンツァーは、バルロに顔を向けて唇を持ち上げた。
「あいつが負けないでいるのに、悔しいわけがない」
「・・・・・・」
「──頭にきてるかどうかは、また別だけどな」
に、と笑うレティシアを、軽く睨むヴァンツァー。
バルロはしばらく黙っていたが、やがて肉食獣を思わせる獰猛な笑みをその精悍な顔に浮かべた。
「──気に入った」
「別にあんたに気に入られても」
「我々も『戦友』というわけだ」
「・・・なに勝手なことを」
「よく考えたら、同じ国の選手を育てるコーチだしな」
「だから」
「おーい、ロザモンド!」
・・・聞けよ、というヴァンツァーの呟きはまるっきり無視され、上機嫌らしいバルロは教え子に向けて声を張り上げた。
「今日はぱーっとやるぞ!」
これを聞いたロザモンドは、隣のシェラにだけ聞こえるようにボソッと呟いた。
「・・・・・・勝手にやってろ」
思い切り顔を顰めながらも、その怜悧な美貌に仄かな赤みが差していることを確認し、シェラはくすくすと笑ったのだった。
**********
シリル様はシェラをすごく可愛がっているのです。
尊敬もしています。
シェラは、ロザモンドの自分にも他人にも厳しいけれど、でも実はとてもやさしいところが大好きなのです。
・・・男ども、しっかりしろ。でも、ちょっとはヴァンツァーかっこ良かったかな?
PR
この記事にコメントする