小ネタや更新記録など。妄想の赴くままに・・・
書いたフィギュア小ネタが、保存しようとしたらアクセス過多のせいで消えた・・・軽く死にたい・・・
でも記憶を辿って書く!
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「──あの、猫ジャッジどもが!!」
押し殺すことの出来ない叫び。
臨界点まで達した怒りはもの言わぬ壁に向けられた。
日頃の怜悧冷徹な美貌が嘘のような憤怒の形相で壁を殴った青年は、勢いのままにパイプ椅子を蹴り倒した。
派手な音を立てて倒れたそれを起こすのは、銀髪の天使。
「アクセルどころか、セカンドのトゥループすら回転不足の演技に、男子メダリスト並みの点数が出るわけないだろうが!!」
回転数は省いているが、もちろん3回転のことだ。
「しかも、フリップのエッジはフラットだった。エラーはつけなくても、アテンションはつくはずだ、ってか?」
おどけたように肩をすくめる猫眼の青年に、ヴァンツァーはきついひと睨みを与えた。
「──違う。つけなければ『ならない』んだ。スローで見なくても明らかなエッジエラーだ。GOEもマイナスでなければならない。それなのに、あのジャッジどもは軒並み加点した」
「まぁ、そう熱くなるなよ」
「回転不足のコンビネーションに2点の加点だぞ? あれだけ氷が削れて、クリーンな着氷をしているわけがないだろうが」
「ヴァッツ」
「あまつさえ、たった50の要素に、途中で立ち止まる余裕のあるストレートラインステップがレヴェル3で、加点はシェラと0.3しか変わらないんだぞ。──ふざけるな!!」
「ヴァッツ」
落ち着け、と言ってはいるが、身体を張って止めるつもりはないらしい。
自分に被害が及ばない程度に距離を取っている。
普段冷静な人間が怒ると手をつけられない、という良い例だ。
「色気とセックスアピールの違いも分からない、『曲の解釈』は自分に理解できる曲かどうか、スケーターですらなく試験を受けて資格を取っただけの愚鈍なジャッジどもに、主観で評価されてたまるか!」
「いやいや、結局主観だって。そのために複数ジャッジがいるんだろ?」
「──自らの意思とプライドのない主観など、俺は認めない」
落ち着くどころか更にヒートアップしていく青年に、レティシアは肩をすくめた。
ほとんど子どもの八つ当たりだ。
言っていることは正統ではあるが、あまりにも感情に奔り過ぎている。
可愛いなぁ、とは思うが、降参の意を示すように諸手を上げて傍らの天使に苦笑する。
「でも、いつもは10点くらい差をつけられちゃうけど、今回は5点もないんだし」
そう言った少女にも、ヴァンツァーは厳しい表情を崩さない。
「お前の演技は、間違いなくこのシーズンで一番の出来だった。ノーミスの演技をしたお前より技術面で優れた女子スケーターは、今のフィギュア界には存在しない」
73点という高得点は出て当然の点数だ。
それどころか、3アクセルへの加点と芸術点が正当に評価されれば、75点近く出てもおかしくない。
2アクセルの枷がなく、3回転を跳ぶことが許されていれば、それこそ男子メダリスト並みの点数を出す可能性もある。
きっぱりと言い切られた台詞に、シェラは目を丸くした。
このコーチがここまで褒めることは珍しい──というより、まずないからだ。
だから、この緊迫した空気の中で、思わず笑みを浮かべたのだ。
「・・・何がおかしい」
「だって、ヴァンツァーが褒めてくれるから。珍しいなぁ、と思って」
「お前は悔しくないのか? トゥループからルッツまでの3回転とアクセルでは、難度が桁違いだ。だが頭の悪いマスコミも、見る目のない連中も、お前が高い確率でアクセルを決めるから跳べて当然だと思っている。そこに血の滲むような努力があることなど、知ろうともしない」
「・・・仕方ないよ。リンクの上での数分間しか、知らないんだもの」
「男子でも3アクセルを跳べるのは半数だ。100%の確率で跳ぶ選手は両手の指にも満たない。それに対して評価が低すぎる」
真剣そのものの表情をしている青年に、やはりシェラは笑ってしまった。
「じゃあ、明後日のフリーもそう言ってもらえるように頑張るね」
「そういう問題じゃない。あんな点数が出るはずがないんだ」
「でも、シャーリーちゃんは人を惹きつける演技をするわ」
「技術点で3点の点差がつくことがそもそもおかしいと言っている」
「・・・・・・」
「じゃあ、あっちみたいに点数に抗議でもするかい? フリーは採点が甘くなるかも知れないぜ?」
シェラの笑顔でだいぶやわらかくなった空気に、レティシアが言葉を投げる。
もちろんたっぷりと皮肉を込めた冗談のつもりだったのだが、ヴァンツァーは「そうするか」などと言っている。
真剣そのものの瞳は、冗談を言っているようには見えない。
「──だーめ!」
否定したのは、当の本人だった。
「シェラ。言いたくはないが、フリーで正当な評価がされる可能性は低い。お前がどんなにいい演技をしても、絶対に勝てない」
「──でも、私はスケーターだから」
「・・・・・・」
「私が戦うのは、リンクの上よ」
普段はふわふわと笑っているが、実はその外見に反して芯が強い少女だ。
「滑らないで勝っても、嬉しくないもの。私は、自分が持つ最高の技で、最高の演技をして、自分と、お客さんと、応援してくれる人たちが満足すれはそれでいいの。それさえ出来れば、点数も、順位も、──メダルも、全部ついてくる」
きっぱりと言い切られた言葉に、怒り心頭だった青年の瞳に平素の静けさが戻る。
──天使が、女神となる。
「それに、ヴァンツァーに迫られたらジャッジの皆さんは怖くて逃げ出しちゃうかも知れないもの。滑らないうちに試合中止なんて、絶対嫌よ」
これには吹き出してしまったレティシアだ。
ゲラゲラと笑っている友人と、分かっているのかいないのかイマイチよく分からない少女に、ヴァンツァーは諦めたようにため息を吐いた。
「・・・まぁ、頑張れ」
「うん! 頑張る!!」
にっこりと笑う少女の、握られた拳が震えている。
それでも、コーチとコリオグラファーは見ないフリをした。
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ちょっとイロイロ変わってるけど、だいたいこんな流れの話を書いていたはず・・・くそ。本気で一瞬何もする気がなくなった・・・。
さ。寝よう。
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