小ネタや更新記録など。妄想の赴くままに・・・
あー、とっても眠いのよー、っと。
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ヴァンツァーという名の妖刀と、シェラという名の鞘が行動をともにするようになって、半月が経とうとしていた。
足手纏い以外の何ものでもない幼子が、その外見に反して男なのだと知っても、妖刀はさして興味を覚えた様子もなかった。
彼にとっては、己の剣を受け止めるでも受け流すでもなく、『触れさせない』という特殊能力者である鞘に興味は覚えたようだが、それだけ。
この鞘は切れない、という認識だけが、彼の中に残った。
それ以外の一切の興味など、なかったのだ。
──あぁ・・・もうすぐ。
宿の窓辺から、空を見上げる。
夕闇が迫ろうとしていた。
太陽が隠れれば、彼の時間。
月のない、新月の晩は彼の剣がもっとも冴えるとき。
人を斬りたいと思ったことはないが、技の冴えを試したいと思ったことならばある。
その対象が、たまたま人であったというだけ。
勝手に向こうから切りかかってくる人間すら、あの鞘は斬るな、と言う。
峰打ちなどという面倒なことをしたのは、初めてのこと。
だが、ここ最近、鞘は夕暮れ時から眠ってしまうことが多かった。
理由の如何は分からないが、小煩い子どもがいない方が、色々と都合が良い。
陽が落ち切り、星明りに照らし出される世界。
──身体が、疼く。
その欲求に抗うことなく、彼は己の分身を手に音もなく立ち上がろうとした。
「・・・どこへ、いくの・・・?」
儚げな声が、耳に届く。
気配などなかったのに、聴いたことのない声がする──この新月の晩に、そんなことはあり得ない。
一度大きく脈打った心臓を押さえつけ、背後を振り仰ぐ。
目を、瞠った。
「また・・・人を斬りに行くの・・・?」
隣の部屋との境から、しどけない様子でこちらを覗いてくる長い銀髪の主。
菫色の瞳と白い肌は、あの鞘を彷彿とさせる。
しかし。
「・・・何だ、お前」
あの鞘はせいぜい7つ程度。
今目の前にいるのは、歳の頃16、7。
──変化の術か・・・?
少年と呼ぶにはあまりに儚げで幽玄的な美貌の主は、僅かに首を傾げた。
「・・・あぁ、この姿」
幼子の姿であったときは満面の笑みとはきはきとした喋り方で小煩いくらいだったのに、今は覇気も生気も感じられない。
けれど、髪を耳にかけるだけの仕草にすら、そこはかとない色気がある。
「新月の晩は、こうなるのです・・・私は、『鞘』だから」
薄く唇に笑みを刷き、ちらり、とこちらに視線を向けてくる。
すい、と白魚のような手が、誘うように伸ばされる。
「──さぁ・・・?」
夜が、始まろうとしていた。
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こっからがこの話の本番です、色んな意味で(コラ)
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