小ネタや更新記録など。妄想の赴くままに・・・
キニアンを書きたくなった(笑)どんだけキニアン好きなんだ、自分(笑)
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「アル~」
澄んだ声に呼ばれ、ふたりの男が振り返る。
どちらも非常に端正な容貌をしているが、片や高校生、片や壮年の親子である。
呼んだ方は高校生の息子がいるとは思えないほどに若々しい──もっと言えば幼いまでの可憐さを誇る女性だ。
しかし、彼女はきゅっと眉を顰めた。
「あなたじゃないわ、アルフレッド。わたしが呼んだのはアリス」
ちいさくて可愛い女の子のような名前をつけられた、身長190cmの少年は、呆れたようにため息を零した。
「・・・あのさ。その呼び方がいけないんだと思うよ?」
『アル』と呼ばれれば、『アルフレッド』が振り返ってもおかしくはない。
それで責められた方はたまったものではないが、怒っても無駄、と思っているのかロマンスグレーの男は手元の新聞に目を戻した。
「で、何?」
「練習に付き合って」
にっこりとふわふわ微笑んでいるくせに、その言葉には『否』を許さない強さがある。
「・・・それこそ父さんでいいじゃないか」
「アルフレッドとはいつだって出来るもの。久々に帰ってきたんだからいいじゃないの」
むぅ、と唇を尖らせる仕草も可愛らしいのだが、キニアンは「はいはい」とため息を零すとソファから立ち上がった。
断ると、末代まで祟られるに違いないのだ。
それにしても、まったく気乗りしない。
というのも、彼の母マリアはそれこそ飽きるまでヴァイオリンに触っているタイプで、気分が乗っているときは5時間でも6時間でも練習に付き合わされるのだ。
一流の音楽家であるマリアとの演奏はとても勉強になるのだが、平然とした顔でパガニーニを弾く彼女についていくのは大変どころの騒ぎではない。
「あんまりやり過ぎると、腱鞘炎になるぞ」
一応そう釘は刺してみるものの、聞いちゃいないに決まっている。
「──で、何弾くって?」
「んもぅ、あなたのその無愛想なところはあの人似ね! カノンちゃんにフラれちゃうんだから!」
「・・・余計なお世話だ」
人が気にしていることを、と額に青筋立てた少年は、「そんなこと言うと付き合わないからな」と強気に出てみた。
「いーわよーだ! カノンちゃんにあーんなことやこーんなことバラしちゃんだから!」
ツン、と顔を背ける母に、キニアンはさっと青くなった。
「・・・そういう卑怯な真似するのやめろよな・・・ったく、どこが『マリア』だよ・・・」
ブツブツ言っている息子は綺麗さっぱり無視して、マリアは調弦を始めた。
その音にすら心が震える。
楽器そのものも、もちろん名器と呼ばれるものなのだけれど。
「今日はまた一段と響くな」
「だって、あなたと演奏出来るんですもの」
にこにこと微笑む少女のような母親に、キニアンも微笑した。
「光栄です」
「──じゃあ、とりあえず指慣らしに」
言ってマリアが演奏を始めたのはバッハ『シャコンヌ』。
これで指慣らしかよ、と思ったキニアンだったが、すっと表情の変わった大音楽家の演奏に、いつしか彼も相棒との語らいに夢中になっていった。
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どの家庭でも、母は強し、なのです。
ダメな子だけどやさしいキニアンが大好きだ。
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