小ネタや更新記録など。妄想の赴くままに・・・
ツンデレ小悪魔系女王様とヘタレわんこの痴話喧嘩の行方やいかに(笑)
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緊迫した空気を醸し出すカノンとキニアンとは正反対に、周りを囲む面々はほのぼのとした様子でふたりを見守っている。
「「ふたりとも頑張れ~」」
シェラとソナタが声を揃えるが、がっちりと手を組んだふたりは周囲の音など耳に入っていないようだ。
キニアンを瞬殺したヴァンツァーはソファに戻って長い脚を組み、ライアンは相変わらずにこにこしていて何を考えているのかよく分からない。
「ソナタ。レフェリー」
「はいはーい」
兄の言葉に動いたソナタは、テーブルで開始の合図を今か今かと待っているふたりの手に軽く触れた。
「泣いても笑っても、これが最後だからね」
「・・・あぁ」
「──叩きのめす」
何やら物騒な発言をしている兄に苦笑しつつも、ソナタは最後の勝負の開始を告げた。
「Ready──Go!!」
双方ぐっと力を込める。
その力はほぼ互角。
右手であれば、キニアンが勝ったかも知れない。
けれど、鬼のような楽譜をいとも簡単に弾きこなす左手は、本来戦うためにあるものではない。
力の入れ方が上手くいかないが、『負けられない』という気持ちが力を呼び起こす信号となる。
徐々に、キニアンが押していく。
けれど、負ける気はない、と言っていただけあって、カノンも諦めてはいない。
日頃から鍛えている身体だ。
更に力を込めようとして──。
「──いっ・・・」
ピクッ、と寄せられる眉。
途端に、キニアンがはっとした表情になる。
「──あ、悪い・・・」
────タン・・・
静かな音が、開放的なリビングに殊更大きく響いた。
「「「「──あ」」」」
外野4人が、一斉に呟く。
視線の先には、目を大きく見開いたまま固まっているキニアンと、睨むようにして相手を見据えているカノン。
テーブルについているのは、キニアンの左手だ。
「・・・・・・え?」
ヴァンツァーのとき以上に信じられないものでも見るような目になったキニアンに、カノンは傲然と顎を逸らした。
「──お人好し」
「・・・・・・え?」
同じことしか繰り返せないキニアンに代わって、なぜかこの男が口を開く。
「あ~あ、やっぱりお兄ちゃんの勝ちか~」
「──ライアン?」
ソナタの問いかけに、ライアンは金色の頭をぽりぽりと掻いた。
「いやぁ、シェラさんはアー君に勝ちを譲ると思ったんだよね。たぶんおれは負けないし、パパさんもきっと本気出すだろうから、あとはお兄ちゃんの気持ち次第、とか思ってたんだけど・・・」
「え・・・? なに・・・? どういう・・・?」
疑問符だらけの頭と顔で呆然として呟くキニアン。
「アー君はやさしいからなぁ」
「・・・は・・・?」
まだ意味が分からない、という顔をしているキニアンに、カノンが訊ねた。
「──チャンスだったのに、どうして力抜いたの?」
訊ねる、というよりは詰問する、と言った方が正しいかも知れない。
カノンの言葉に、目をぱちくりさせたキニアン。
「どうして・・・? え? 何が?」
「あのまま倒しておけば、アリスの勝ちだったのに」
「え・・・? だって、お前痛がって」
「芝居に決まってるじゃん」
「・・・・・・」
「ほんと、お人好しだよね」
ツン、と顎を逸らしているカノンに、キニアンはまだショックから立ち直れないでいるようだ。
しばらく呆然としていたが、やがてふと自分の左手に視線を落とした。
「・・・そっか」
痛みを堪えるような表情で、端正な容貌に笑みを張りつける。
「・・・・・・そっか・・・」
目を閉じ、拳を握ると、ゆっくりと、深く息を吐き出した。
肺の中を空っぽにするようして息を吐くと、顔を上げてカノンを見つめた。
「・・・分かった。俺の、負けだな・・・」
「そうだね」
「・・・うん、分かった・・・」
ゆっくりと立ち上がるが、どこかふらふらとした印象を受ける。
深く項垂れた青年は、消えそうな声で告げた。
「・・・もし、赦してくれる気になったら・・・連絡くれれば、迎えに来るから」
「帰らないって言ったら?」
「──っ・・・・・・」
思わず唇を噛んだ。
かっこ悪い。
シェラには勝ちを譲られ、ライアンとヴァンツァーには完敗し、カノンにも負けた。
ここにいる男の中で、最弱だということだけが証明された。
それは力そのものということもあるが、精神面でも負けたということだろう。
言い訳はしたくない。
それは、最初に言ったこと。
だから、ここは引き下がるしかない。
「・・・・・・待ってるよ」
それしか言えない。
悪いのは、自分だ。
カノンの気持ちも考えず、自分の考えを押し付けてしまった。
カノンが何を望んでいるかなんて、全然分かっていなかった。
怒るのも当たり前だ。
それでも、もし帰ってきてくれるのなら、そのときは今度こそ間違いなく抱きしめて迎えよう──今考えられるのは、それだけ。
「──ばっかじゃないの?」
『ば』をやたら強調した台詞に、顔を上げる。
やはり不機嫌全開の女王様は、立ち上がると腰に手を当てた。
「ぼく痛がるフリしたんだよ? ずるくない? それこそ『フェアじゃない』って言えばいいじゃない。そうしたらこの勝負無効でしょう?」
「・・・負けたのは、事実だよ」
「ぼく、ズルして勝ったんだよ? 納得出来るの?」
「・・・帰りたくないから、やったんだろう?」
「本気で帰って欲しいなら、首に縄でもつけて引っ張っていけばいいじゃない」
これには、大きくため息を吐いて首を振るキニアンだ。
「俺、お前が我慢してるの見るの、嫌なんだ」
「・・・・・・」
「上辺だけの笑顔張りつけてるの、見たくないんだよ」
「・・・・・・」
「ほんと、ごめんな・・・何で俺、こんな空気読めないんだろうな・・・」
情けない、と零すキニアンに、カノンは「はぁぁぁぁ」と、特大のため息を零した。
「ヘタレ」
「・・・はい」
「わんこ」
「・・・ごめんなさい」
身長差はだいぶあるのに、ふんぞり返ったカノンとちいさくなったキニアンでは、あまり大きさが違うようには見えない。
腕を組んだ女王様は、別に、と言って顔を逸らす。
「悪いとは言ってないけど」
「──え?」
新緑色の瞳を丸くするキニアンに、ちらり、と視線を向ける。
「反省してる?」
「──はい」
「もう二度としない?」
「今回みたいなことは・・・出来るだけ」
「約束する?」
「・・・・・・善処、します」
生真面目な青年は、出来ないことは口にしない。
だからこその精一杯であろう台詞に、カノンはもう一度ため息を吐いた。
「じゃあ、ただいまのキスして」
「──は?!」
「してくれなかったじゃん。してよ」
「・・・・・・ここで・・・ですか・・・?」
「当たり前」
「・・・・・・」
えーっと、と周りを見るが、4人が4人とも一斉に目を逸らした。
「・・・・・・」
黙認します、という合図に、それでも恥ずかしさで死にそうになったキニアンだ。
カノンとその他4人とを見比べ、葛藤に葛藤を重ね。
──ちゅっ。
「・・・あのさ。いつも言ってるんだけど、何で頬なのかな?」
「・・・家・・・家に帰ったら、ちゃんとします」
「ここだっていいじゃん」
「いや、だいぶ良くないと思うんですけど」
「じゃあ帰らない」
「~~~~カノン!」
「して」
梃子でも動きそうもない女王様に、キニアンはやはりまた葛藤を重ね。
──ちゅっ。
軽く、本当にごく軽く、触れるか触れないかのキスを唇に。
お前ふざけんなよ、という表情で額に青筋立てたカノンだったが、『もうこれが目いっぱいです!』というキニアンの訴えに、やわらかな銀髪をガリガリと引っ掻く。
「・・・はいはい、分かりました。ぼくってば大人だから、今はこれで勘弁してあげる」
「ごめんなさい」
「本気で反省してね」
「・・・はい」
恥ずかしさと反省とで豆粒のようにちいさくなってしまったキニアンに背を向け、カノンは行儀良く顔を逸らしていた面々に向き直った。
「──そういうわけなので、帰ります」
こうして、とても平和な痴話喧嘩騒動は幕を閉じたのであった。
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後半、4人の反応をまったく書いていませんが、その辺は脳内補完でお願いします。
いや、それにしてもかなり長くなったな(笑)
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