小ネタや更新記録など。妄想の赴くままに・・・
裏モノが書き上がらないので、おやつ代わりに。
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腕の中で微睡む男は相変わらず美しい顔立ちをしていたが、その顔色はあまり良くない。
元々色は白いのだが、軽く伏せられた瞼は青白くさえ感じられるほど。
眠りを促すように唇を落とせば、逆らうことなく瞳が閉じられた。
すぐに規則正しい寝息が聞こえてきて、詰めていた息をそっと吐き出した。
勤勉さを罪だとは思わないが、そうでなければ生きていけない人間を造り出してしまったことは罪悪だ。
──もう、お前を脅かす存在は何もないよ・・・。
そう言って聞かせたところで、きっとこの男は変わらないのだろう。
これでも、こうやって寝顔を見せているだけマシなのだ。
少し前まで、寝るところも、また起きたところも、見たことがなかったのだから。
一体この男がいつ眠っているのかも知らず、ただ安穏と暮らしている自分が惨めで仕方がなかった。
女であったら、もう少し違ったのかも知れない。
いくら女として育てられたとはいっても、女のように振舞っても、きっと何もかもが違うのだ。
行者として生きていた頃は、女だったら便利だろうな、と思う場面には何度も出くわしたが、実際に女でありたいと思ったことはない。
そんな、考えても仕方のないことは考えない。
だが今は──こうして独り何かと戦っているように見える男を前にすると、禁忌は承知で請いたくなるのだ。
──・・・どうか、時を戻して下さい・・・この男が生まれたその場に・・・ファロットがこの男を連れ去ってしまうその前に・・・。
「・・・私に」
下さい。
どうか。
きっと、守ってみせます。
今の自分には、それだけの力があります。
あの頃よりも強くなりました。
だからどうか・・・。
「・・・なんだ。泣いているのか・・・?」
ぼんやりとした声音に、はっとした。
指で頬を拭われ、ようやく男の言葉の意味に気がついた。
「・・・何でも」
「お前は、よく泣くな・・・」
まだ微睡みの中にいるような、覇気のない掠れた声。
少し笑ったようでもあるが、力のない声だ。
けれどもこちらの頭を引き寄せる腕の力は強くて、逆らう前に厚い胸に迎え入れられた。
「疲れているんだろう。もう眠れ」
「・・・・・・」
違う。
これでは逆だ。
そうではなく、私が──。
「私が・・・抱きたい」
言うと、藍色の瞳が丸くなった。
あぁ、そうか、と気づいて苦笑した。
「・・・そういう意味じゃない。腕枕。今日は、私がお前を抱いて寝たい」
何を言い出すのだろう、と訝る男の返事を待たず、懐深くに抱え込んだ。
黒い頭を胸に押し付け、見た目に反してやわらかな髪を撫でる。
女のような胸があればいいのに。
きっと、こんな硬い胸よりも心地が良いだろう。
それで気が休まるのなら、女を抱いたっていい。
いつか、この腕の中からいなくなってしまうのでも。
たったそれだけのことで、この男が心安くあれるのならば、そんなことはどうでもいい。
「また、余計なことを考えているようだな」
「え・・・?」
言われたことの意味が分からず瞬きを返せば、「いい」と首を振られてしまった。
その態度が寂しくないと言えば嘘になる。
けれど、「すべてを話せ」と無理なことを言う気にもなれない。
「それがお前だ」
「ヴァンツァー・・・?」
問いかけに答えは返らない。
私の望みを果たすべく、男はやがて腕の中で静かな寝息を立てはじめた。
少し安堵して、少し苦しくなった。
きっと、この男はすべて解っているのだろう。
解っていて、見ないフリをしてくれている。
この痛いような、苦しいような気持ちをこの男に気取らせないくらい、強くなりたい──強く、在りたい。
「・・・おやすみ」
せめてこの腕の中にいるときだけは、安心して眠れるように。
今は、瞼にそっと落とす接吻が、この男への子守唄。
**********
なぜか『聖女たちのララバイ』をエンドレスリピ。宏美ぱねぇ。
久々に、ヴァンシェラふたりきりのお話でした。
今はふたりともこのように繊細なグラスハートの持ち主ですが、子どもたちが生まれたら、シェラは肝っ玉母さんになり、ヴァンツァーは幼児退行が進むのです。・・・シェラの望みが叶ったはずなのに、なぜか残念さしかないのは、きっとヴァンツァーがでっかいまんまだからでしょう。見た目のサイズって大事よね。
腕の中で微睡む男は相変わらず美しい顔立ちをしていたが、その顔色はあまり良くない。
元々色は白いのだが、軽く伏せられた瞼は青白くさえ感じられるほど。
眠りを促すように唇を落とせば、逆らうことなく瞳が閉じられた。
すぐに規則正しい寝息が聞こえてきて、詰めていた息をそっと吐き出した。
勤勉さを罪だとは思わないが、そうでなければ生きていけない人間を造り出してしまったことは罪悪だ。
──もう、お前を脅かす存在は何もないよ・・・。
そう言って聞かせたところで、きっとこの男は変わらないのだろう。
これでも、こうやって寝顔を見せているだけマシなのだ。
少し前まで、寝るところも、また起きたところも、見たことがなかったのだから。
一体この男がいつ眠っているのかも知らず、ただ安穏と暮らしている自分が惨めで仕方がなかった。
女であったら、もう少し違ったのかも知れない。
いくら女として育てられたとはいっても、女のように振舞っても、きっと何もかもが違うのだ。
行者として生きていた頃は、女だったら便利だろうな、と思う場面には何度も出くわしたが、実際に女でありたいと思ったことはない。
そんな、考えても仕方のないことは考えない。
だが今は──こうして独り何かと戦っているように見える男を前にすると、禁忌は承知で請いたくなるのだ。
──・・・どうか、時を戻して下さい・・・この男が生まれたその場に・・・ファロットがこの男を連れ去ってしまうその前に・・・。
「・・・私に」
下さい。
どうか。
きっと、守ってみせます。
今の自分には、それだけの力があります。
あの頃よりも強くなりました。
だからどうか・・・。
「・・・なんだ。泣いているのか・・・?」
ぼんやりとした声音に、はっとした。
指で頬を拭われ、ようやく男の言葉の意味に気がついた。
「・・・何でも」
「お前は、よく泣くな・・・」
まだ微睡みの中にいるような、覇気のない掠れた声。
少し笑ったようでもあるが、力のない声だ。
けれどもこちらの頭を引き寄せる腕の力は強くて、逆らう前に厚い胸に迎え入れられた。
「疲れているんだろう。もう眠れ」
「・・・・・・」
違う。
これでは逆だ。
そうではなく、私が──。
「私が・・・抱きたい」
言うと、藍色の瞳が丸くなった。
あぁ、そうか、と気づいて苦笑した。
「・・・そういう意味じゃない。腕枕。今日は、私がお前を抱いて寝たい」
何を言い出すのだろう、と訝る男の返事を待たず、懐深くに抱え込んだ。
黒い頭を胸に押し付け、見た目に反してやわらかな髪を撫でる。
女のような胸があればいいのに。
きっと、こんな硬い胸よりも心地が良いだろう。
それで気が休まるのなら、女を抱いたっていい。
いつか、この腕の中からいなくなってしまうのでも。
たったそれだけのことで、この男が心安くあれるのならば、そんなことはどうでもいい。
「また、余計なことを考えているようだな」
「え・・・?」
言われたことの意味が分からず瞬きを返せば、「いい」と首を振られてしまった。
その態度が寂しくないと言えば嘘になる。
けれど、「すべてを話せ」と無理なことを言う気にもなれない。
「それがお前だ」
「ヴァンツァー・・・?」
問いかけに答えは返らない。
私の望みを果たすべく、男はやがて腕の中で静かな寝息を立てはじめた。
少し安堵して、少し苦しくなった。
きっと、この男はすべて解っているのだろう。
解っていて、見ないフリをしてくれている。
この痛いような、苦しいような気持ちをこの男に気取らせないくらい、強くなりたい──強く、在りたい。
「・・・おやすみ」
せめてこの腕の中にいるときだけは、安心して眠れるように。
今は、瞼にそっと落とす接吻が、この男への子守唄。
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なぜか『聖女たちのララバイ』をエンドレスリピ。宏美ぱねぇ。
久々に、ヴァンシェラふたりきりのお話でした。
今はふたりともこのように繊細なグラスハートの持ち主ですが、子どもたちが生まれたら、シェラは肝っ玉母さんになり、ヴァンツァーは幼児退行が進むのです。・・・シェラの望みが叶ったはずなのに、なぜか残念さしかないのは、きっとヴァンツァーがでっかいまんまだからでしょう。見た目のサイズって大事よね。
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