小ネタや更新記録など。妄想の赴くままに・・・
「みんな~、今日はゲネだから気楽に行こうね~」
と言っていた私が一番緊張していて、昼の部はグダグダでした・・・もう、ものすごい自己嫌悪・・・他の役者が良かっただけに、本当に申し訳なかったです。なので、夜の部でリベンジしました(笑)
反省する点は多々あるけれど、でも、やっぱり舞台はいいな~。還ってきた、って感じがします(笑)役者の反応、客席の反応、そういうの全部ひっくるめて、会場がひとつになる瞬間。たまんないよね(笑)
今日は、申し訳ないですが昼間のお客様にはごめんなさい。いや、昼間の私に出来る精一杯の演技はしましたが、あまりにもグダグダすぎて・・・夜は、まぁまぁ楽しむ余裕があったかな。何せ夜型人間なもので(笑)
明日も、自分たちもお客様も楽しめる空間を作れたらいいな、と思います。
さて。そんなこんなですが、何だか世間はホワイトデーらしいので・・・ちょこっとだけ。
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「──べ、別に、ヴァンツァーにだけあげるんじゃないからね!」
そう言って銀髪に紫の瞳の美少女は、ちいさな箱を差し出した。
不恰好なラッピングを見るからに、少女が自分でやったのだろう。
「レティーにもあげたんだから……ぎ、義理よ、義理!」
はい、と青年に押し付けるようにして箱を渡すと、「じゃあね」と足早に更衣室へ向かう。
午前と午後、2時間ずつの練習が終わったあとだというのに、元気なものである。
手元を見下ろした青年は、軽くため息を零すと控え室へ向かった。
「──うわぁ、やっぱりたくさんもらってますね」
帰り支度を整えていると、感嘆とも賞賛とも揶揄とも取れる声が掛けられた。
振り返ると、猫のようにしなやかな肢体を誇る男性スケーターがいた。
これから夜にかけては、彼がリンクの使用許可を取っている。
もうすぐ彼のコーチたちも現れるだろう。
そんな青年は、特別反応を返してこない黒髪の青年の隣に立つと、テーブルの上に所狭しと並べられたチョコレートを見てくすっと笑う。
「これじゃあ、ぼくがあげても埋もれちゃいますね」
「逆に持って帰ってくれ」
「そんな、女性たちのせっかくの好意を無下にするなんて、ぼくには出来ません」
「こんな製菓メーカーの陰謀の何が楽しいのか、さっぱり分からん」
山のようなチョコレートには目もくれずコートを羽織った美貌の青年に、アスティンはさすがに非難の目を向けた。
「・・・あなた、一夜の女には不自由しないけど、付き合った女性には必ずフラれるタイプですよね」
きっと、記念日やイヴェントの類も、まったく頓着しないに違いない。
クールといえば聞こえはいいが、要は無関心の塊のような男なのだ。
「──あれ? この不恰好なのは?」
少しでも目立つように、と綺麗にラッピングされていたり、高級洋菓子店の袋に入っていたりするプレゼントの中で、一際異彩を放つ箱がひとつ。
薄いブルーグレーの箱に、黒と銀色のリボンでラッピングしようとしたらしいのだが、リボンは緩んでいるし、結び目は歪んでしまっている。
悪い意味で目立っているそれを手に取ったアスティンだったが、横から伸びてきた手にひょい、っと取り上げられてしまった。
「他のは全部やるよ」
「・・・・・・」
そのひと言で、勘の良い青年はピンときたらしい。
「手作りですか? 可愛いことするなぁ。しかも、黒と銀のリボンなんて、狙ってやってるのかなぁ、これ」
「あの馬鹿にそんな知恵があるわけないだろうが」
「でも、それは持って帰るんですね?」
じっと瞳を覗き込んでくる青年に、ヴァンツァーは真顔のまま言った。
「──間違って食べたヤツが食あたりを起こしても困るからな」
それを聞いたアスティンは、『素直じゃないなぁ』と思いつつも、何も言わなかった。
──ひと月後。
その日シェラは、朝からそわそわしていた。
別にお返しを期待しているわけではないが、いくら朴念仁で性格最悪でも、飴玉のひとつでもくれるんじゃないか、とは思うわけだ。
毎年毎年彼がたくさんのチョコレートをもらうことは知っているが、食べているのを見たことはない。
甘いものが苦手なことも知っているから、料理上手の姉に教わって、ビターチョコレートで作ったのだけれど・・・食べてくれただろうか。
チョコレートを渡した翌日も、その次の練習の日も、何も言われなかった。
『義理だ』と言い切った手前、あまり訊ねるのも気が引けた。
そうこうしているうちに、3月14日になってしまったのだ。
シェラの場合、試合前は午前中にショートプログラムを、午後にフリースケーティングの練習をする。
午前中の練習が終わっても、何もアクションはなかった。
これで帰るまでに何もなかったらちょっとショックかも、と思っていたら、午後一番に練習内容を確認した際、コーチである青年がリンクサイドに小箱を置いた。
シェラが渡したのと同じようなサイズの箱だ。
「──ヴァンツァー、これ」
きらきら、と菫色の瞳を輝かせた少女に、相変わらず無愛想なコーチは淡々とした口調で言った。
「最後に1本通すとき、ノーミスだったらやるよ」
「・・・・・・」
「肉眼で確認出来ない程度の回転不足だったら見逃してやる」
「・・・・・・」
5度の回転不足ですらスロー再生なしに見極めるくせに、と柳眉を吊り上げたシェラだったが、ヴァンツァーの性悪は今始まったことではない。
「・・・分かったわ」
見てなさいよ、と口の中で呟くと、シェラは黙々と練習に励んだのである。
シェラの首に雪の結晶を象ったペンダントが揺れ、『氷上の妖精』と呼ばれるようになるのは、ほんのちょっと先の話。
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ヴァンツァーはむっつりだな。間違いない。
さ。明日も全力投球だぜ。
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