小ネタや更新記録など。妄想の赴くままに・・・
キニアンから『照れ』とか『恥』とか『躊躇い』とか、そういうのを取っ払ったらどうなるのか。
やってみよ。
やってみよ。
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ついさっきまでは雲ひとつない晴天だったのに、昼食に立ち寄ったレストランでふと窓の外を見たら、バケツをひっくり返したような雨が降っている。
──よくあることだ。
「・・・・・・ないって」
ボソッ、と呟くカノン。
天気予報でも快晴で、日傘を持って歩いている女性の姿は見受けられたが、絶対に誰も雨傘なんて持ってきていないはずだ。
もちろん、カノン自身も、前に座っている青年も、傘など持っていない。
「そのうち止むだろ」
確かに、それが夕立の類であれば一時的なものである可能性が高い。
「でも、空真っ暗だよ」
「じゃあ、しばらく待って、小降りになったら出よう」
移動は車だったが、この店に専用の駐車場がないため、エア・カーを置いてある場所まで少し歩かなくてはいけない。
大した距離ではないが、さすがにこの雨の中を走るのは気が引けた。
30分ほど経った頃、小降りとまではいかないが、当初の勢いは衰えてきた。
「・・・まだ結構降ってるね」
「ここでちょっと待ってな」
「──え?」
「傘、買ってくるよ。近くにコンビニあったから」
「いいよ! だったらぼくも行く!」
「濡れるから」
「でも・・・」
「待ってろ」
な? とちいさく微笑まれて、カノンは躊躇いながらもこくり、と頷いた。
上からものを言われるのは好きじゃない──どころか、大嫌いだ。
勝手に自分の意見を押し付けてくる人間も、大っ嫌い。
でも、キニアンの場合、その押し付けがましさがない。
それはきっと、彼が本当にこちらの心配をして、気を使ってくれていることが分かるからなのだろう。
普段はあんまり笑わないけれど、こういうときに見せる穏やかな笑みは好きだった。
席を立って行ってしまった長身の青年を見送り、カノンは店員を呼んだ。
会計を済ませてしまおうと思ったのだ。
「先ほどお連れ様から頂戴いたしました」
これには瞠目したカノンだった。
まさか、自分が払おうとするのを見越してのことだろうか?
いや、そんな芸当が出来る男とはとても思えない。
何も考えず、出るからついでに払っていこう、くらいのことしか考えていなかったに違いない。
「・・・まったく」
ぶつくさ言いながらも、止まない雨を見つめ、あんまり濡れてなければいいけど、と考える。
戻ってきたキニアンは、走っていったようだが、それでもやはり服は濡れていた。
しかし、カノンが気になったのは、それとはまた別のところ。
「──あれ? 1本?」
店員からタオルを借りて髪や服を拭いていたキニアンが手にしている傘は、1本だけ。
「あぁ。いいだろ? 車までだし」
「・・・別にいいけど」
きっとこれも天然なのだろうな、と思いながら、相手には分からないようにため息を零す。
計算でこんなことが出来る男ではないのだ。
そうして、店を出たふたりは、当然のように相合傘でエア・カーへと向かった。
いつだって横に並んで歩いているけれど、こういうのは何だか気恥ずかしい気がして、カノンは少し身体を引いた。
「こら、濡れるぞ」
そう言って左肩を引き寄せられた。
びっくりした。
何がびっくりしたといって、ドキドキしている自分にびっくりしたカノンだ。
何を今更、と思わないではいられない。
「せっかく可愛い服着てるのに」
まったく、と呆れた顔で見下ろしてくる恋人を見上げ、やはりドキドキしている自分がいてびっくりした。
何だこれ、と思っても、原因がさっぱり分からない。
そうして、5分ほどして駐車場に着いたときも、自分が車に乗るまで傘を差しかけて待っている男に、ドキドキしっぱなしのカノンなのだった。
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うー、時間切れ。
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