気分がノってるときに、書いておこうね。
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試着室から出てきた自分を見てヴァンツァーとライアンが腕組みをしているので、キニアンはドキドキと脈が速くなるのを感じた。
「ふむ」
「これは」
などと呟いている年長者たちを前に、キニアンは非常に居心地の悪い思いをしていた。
服を渡されたときも思ったのだが、自分は何だか悪目立ちしているのではないだろうか。
こんな色の服は着たことがないし、先程から集まる視線と立ち止まる人の数が天井知らずに増えていっている気がする。
──・・・やっぱり変なんじゃないか・・・?
本職と芸術家の見立てだからきっと間違いはないのだろうけれど、どうしても不安が拭えない。
ここにシェラでもいれば話は違ったのかも知れないが、黒と金の美貌の主たちを交互に見ても、こちらをまじまじと見つめるだけで何も言ってくれない。
「やっぱり素材ですかね?」
「だろうな」
「これ、だいぶ難しいですもんね」
「俺には無理だな」
「あ、おれも。もうちょっと彩度落とすか、寒色なら自信あるんですけど」
真面目な顔をして彼らが何を話しているのか、キニアンにはさっぱり分からない。
「シルバー? ゴールド?」
「いや、革だな」
「──あぁ、そっちか」
頷きあった男たちは、またもやクレジットカードで買い物を済ませると、早くしろ、とばかりの視線をキニアンに向けた。
そうして、前の店で買った服を包んでもらうと、新しい服に着替えたキニアンを伴い、次は靴屋へと向かったのである。
きゃーきゃー騒ぐ声がどんどん大きくなってきていて、キニアンは更に音を絞った。
雑踏を歩くときは耳に入る音を制限しているのだが、それにしても休日とはいえ今日は一段と頭に響く音が強いな、とため息を零した。
色が派手だから人目を引くんじゃないか、と思いはしたが、まさか脱ぐわけにもいかない。
──・・・何で赤なんだろう・・・?
ぴらっ、とジャケットの前を掴むと、前から歩いてきていたカップルの女性の方が足を止めてじーっと見てくるので、ぱちぱち、と瞬きを返した。
隣の男性がむっとした顔で睨んでくるので、何でそんな顔をされるのか分からなくて、キニアンは困惑の表情を浮かべたものだ。
「元の服の方がいいですかね?」
「今更だろう。それに、本人の自覚を促すことも大事だ」
「あはは。ってゆーかパパさん、自分に向かう視線が半減して楽だなー、とか思ってるでしょ」
「うん」
「お兄ちゃんがここにいたら、すごい嫉妬しそうなんですけど」
「まだ80%ってところだろう」
「あとは、アクセと靴?」
「そう」
すたすたと歩いていってしまう年長者たちに追いつくべく、付き纏う視線を無理やり無視したキニアンは、少し早足になった。
そうして、全身コーディネートが済んだ自分の姿を見てヴァンツァーが満足そうに頷き、ライアンがにこにこ笑って手を叩いたので、ようやく解放されるのだ、とほっとした。
──しかし、着せ替えごっこからは解放されても、何だか異様に熱のこもった視線からは解放されなかったのである。
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さて。キニアンはどんな服に着替えたのかなー。