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カノンは、肝心なことほど口を噤んでしまう癖がある。
『いい子』なのは決して悪いことではないのだろうが、我慢しすぎは良くない。
無茶振りならいくらでもしてくるのに、ちいさい我が儘を躊躇するというのは、こいつの性格なのだろう。
「今日は、何でも言うこときいてやるぞ」
会社勤めのカノンと、チェリストの俺。
俺はそう忙しくもないけれど、それでも仕事の入る日は不規則で。
休みが合わないこともある。
一緒に暮らしていて、ほとんど毎日顔を合わせてはいるけれど、ふたり揃っての休日は久々だった。
だから、ドライブでも買い物でも、カノンの好きなように過ごさせてやろうと思ってそう言ったのだが。
「ん~ん、いいの」
銀色の頭を横に振って、肉の薄い頬にふんわりとした笑みを浮かべるカノン。
「アリスも疲れているでしょう? うちでふたりでのんびり、ゆっくりでいいよ」
そんなことを言って抱きついてくるものだから。
──ちゅっ。
「~~~~~っ、なっ」
宝石みたいな目が真ん丸になって、顔も真っ赤だ。
とても可愛らしいけれど、どうも不満だ。
「聞き分けのいい子には、キスのお仕置き」
「・・・」
「俺は我が儘を言え、って言ったんだよ」
額を小突いてやったら、そこを押さえて唇をうにむにと動かし始めた。
どうやら、『言え』と言われると、お得意の無茶振りや我が儘も言えなくなってしまうらしい。
「とりあえず、ドライブにでも行くか」
「──え?」
「家の中でも車の中でも、ふたりきりなのは一緒だし。途中で行きたいところが出来たら言えばいい」
な? と微笑みかけてやれば、菫色の瞳が潤み出した。
泣くのかと一瞬焦ったが、違うらしい。
「──もうっ! そんなにぼくのこと喜ばせたって、何もあげられないんだからね!」
そんな風に言うから、思わず笑ってしまった。
「喜ばせたくてやってるんだから、それで十分だよ」
「アリス・・・」
「ドライブ、付き合ってもらえますか?」
お伺いを立てると、今日は天使が多めのカノンは、にっこりと笑って大きく頷いた。
──あぁ、ほら・・・その笑顔だけで、俺はこんなにも幸せになれるんだよ。
もらった分を返すのは、なかなか大変そうだ・・・。
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はい、いちゃいちゃカプでございました(笑)やっぱりキニアンは、成長したら一番デキる子だと思います。