小ネタや更新記録など。妄想の赴くままに・・・
グランプリシリーズ開幕。どの選手も、好調・不調の波はあるでしょうが、最後まであきらめずに滑り続ける姿に胸を打たれました。
まだまだシーズン初戦。これからどんどん技と演技を磨いていって、素晴らしいシーズンにしていただきたいです。
詳細は、あとで小ネタにでもしようかな。うん。
さて。記念小説の続きを書きながら色んなピアニストの『愛の夢』をひたすら聴いていたら、何だかキニアンが出てきました。この前の続きかな。
**********
アシュリーが言っていたことが真実かどうかは別として、カノンに会いたいという気持ちがあるのは確かだ。
2週間前に「これから忙しくなるから、あんまり連絡できないから」と言われてから、カノンからは一度もメールも電話もない。
キニアンは一度だけメールをしたが、翌日まで返事がなかったのは初めてのことだった。
だから余程忙しいのだろうと思って、それからは連絡をすることも控えていた。
邪魔はしたくないし、負担になりたくもない。
人間誰しも優先させる物事と順位というものがあり、カノンにとって今はそれがキニアンではないということなのだろう。
「・・・ま、最優先にしてもらったこともないけど」
言ってみて虚しくなった。
片想いなのは分かりきっているが、以前に付き合った女の子なら2週間でも3週間でも放っておいた自分が、と考えると、ため息しか出ない。
「デートする時間がないなら、ちょっとの時間でも会いに行けばいいのに」
「・・・迷惑に決まってる」
「一応恋人なんでしょう? ストーカーでなく」
「・・・俺も人のこと言えないけど、もう少し言葉を選んでくれ」
「連絡取れないうちに自然消滅とか、そっちの方が嫌じゃない」
「・・・胃が痛くなってきた」
「だから、会いに行っちゃえばいいのに」
何で分からないのかしら、と眉を顰める友人に、キニアンは大袈裟なまでのため息を吐いた。
「女々しい男だって思われたらどうするんだよ・・・」
「その発言と今の態度が十分女々しいから大丈夫」
「・・・フォローになってないだろうが」
「4年も付き合ってるんだから、相手もあなたのこと分かってるわよ。そんなに気にすることないと思うけど」
「何て言って会いに行くんだよ」
この言葉に、アシュリーは呆れ返ってしまった。
「恋人に会いに行くのに、『会いたい』以外の理由が必要だったなんて初耳だわ」
「忙しいからしばらく連絡取れないって言われてるんだぞ?」
「メール返してきてくれたんでしょう? だったら別に迷惑なんかじゃ」
「あいつは、よっぽど嫌いなやつからじゃなきゃ、人の言葉を無視したりしないよ」
「ノロケてくれるわね」
「そういうことじゃなくて。だから、そんなあいつが翌日まで返信してこなかったっていうのは、何か事情があるに違いないんだ」
何だかんだいっていつも気づけばすぐに返信をくれるカノンだから、携帯の電源を切っていたか、気づかないほど立て込んでいたかのどちらかなのだろう。
それが分かる程度には、鈍感だのKYだの言われるキニアンでもカノンのことは理解していた。
「だったら、向こうから連絡寄越すまで何もしないわけ?」
「それは・・・」
「あたしはあんまりあなたの恋人のことを知らないし、別に悪く言うつもりもないけど。──これって、浮気されてるときのパターンじゃないの?」
「──は?」
「新しい男が出来たから、あなたとは少しずつ距離を取ろうとしてるんじゃないの、ってこと。あ、もちろん本気で言ってるわけじゃないわよ? たとえ話だからね?」
「・・・・・・」
しかし、既にキニアンの表情は暗く沈み込んでいる。
しまった、と舌を出したアシュリーだったが、まぁ、これでこの顔は男前でチェロの腕も一流のくせに、どうにも恋愛下手で何だか放っておけない大型犬みたいな青年が動く気になるなら、それはそれでいいか、と思うのだった。
彼女には歳の離れた弟がいる。
まだ幼稚園に通っている弟は、実家に帰ると「おねえちゃん、おねえちゃん!」と纏わりついてくるわけだが、何だかその弟を見ているのと同じ感覚なのだ──我ながらとても失礼な話だと思うので、本人には言わないことにしているが。
「ここまで来たら、当たって砕けてみたら?」
「・・・9割方砕ける気がします」
これには目を丸くしたアシュリーだ。
「呆れた。あなた、恋人に愛されてる自信とかないわけ?」
「ありません」
カノンに聞かれたら殺されそうな台詞だが、偽らざる本音だった。
「あいつは、頭いいし、美人だし、ちょっと我が儘だけどいい子だし。俺なんかが相手にされるわけないんだよ」
「じゃあ別に砕けたっていいじゃない」
「良くないだろうが」
「たまたま付き合ってもらっただけなら、たまたまフラれたって一緒でしょ?」
「・・・・・・」
「まぁ、あたしには別に関係ないけど」
でもね、とアシュリーは真剣な顔つきになった。
「あなたの音があのままなのは、絶対嫌なの」
「・・・・・・」
「あたしはあなたの音が好きなの。もっともっと聴きたいの。マエストロだって、そう思ったからああ言ったんだと思うわ」
ちょっと言いすぎだとは思うけど、と心の中でつけ加える。
「分かったら、さっさと砕けて来なさいよ」
「・・・砕ける前提かよ」
「自分で言ったんじゃないの。あたしは、1パーセントでも望みがあるなら動くべきだと思うけど」
しばらく無言で見つめあって──否、睨み合っていたふたりだが、先にキニアンが根負けしてため息を零した。
「はいはい。じゃあ連絡してみますよ」
「あ、結果教えてね」
「何で?」
美人なヴァイオリニストはにっこりと笑った。
「──興味本位」
本当に、自分の周りにはこんなのしかいないらしい、とがっくり肩を落としたキニアンだった。
**********
あー。書きたいところまで書けなかった・・・ジョルジュ・シフラの『愛の夢』の甘さと激しさにノックアウトされた橘です。昨夜書いていたのに眠気に負けて今朝続きを書きました。繋がってなかったらごめんなさいね。
PR
この記事にコメントする