小ネタや更新記録など。妄想の赴くままに・・・
茅田先生、こーゆーの待ってたんだよ!
・・・ということで、素晴らしい! 皆さん、是非読んで下さい。私はボロボロ泣きました。心があたたまるだけではなく、笑っちゃったり、応援したくなったり。こういうの読みたかった!!
あー、今週頑張れる気がする。
感動すると、筆が進むよね。
・・・ということで、素晴らしい! 皆さん、是非読んで下さい。私はボロボロ泣きました。心があたたまるだけではなく、笑っちゃったり、応援したくなったり。こういうの読みたかった!!
あー、今週頑張れる気がする。
感動すると、筆が進むよね。
**********
あの男と、一緒に暮らすことになった。
深い意味はない。
立場は雇用主と従業員であり、まだ連邦大学に在籍する学生である私の身分と業務効率の円滑化を慮り、あの男が提案してきたものだ。
「これを」
寮で使っていた手荷物の分量など知れていたが、それらを運び込んだ私に、あの男は1通の封筒を渡してきた。
封を開けてみてぎょっとした。
かなりの枚数の高額紙幣が入っていたのだ。
「・・・何だ、これは」
「当面の生活費だ」
「──は?」
「とはいえ、家賃は必要ないし、光熱費は口座から引き落とされる。それは食費と、他に必要なものがあったら買い足してくれて構わない」
「・・・・・・」
「もちろん、足りなければそう言ってくれ」
この男は生き返って学生を始めた当初から秀才の名をほしいままにしていたが、実は馬鹿なのかも知れない、とそのとき初めて思った。
「食費、だと?」
「あぁ」
「当面と言っていたが、何ヶ月分だ?」
「とりあえずひと月のつもりだ」
「この金額で?」
「足りないか?」
首を傾げる様子に、おそらく「足りない」と言えば同じ程度の金銭を渡してくるのだろうことが予想出来た。
優秀な成績で大学を卒業し、デザイナー兼企業の経営者となった男に、ため息混じりに教えてやった。
「──食費だけで月に30万だと? ふたりきりの世帯で、お前はどれだけ食べる気でいるんだ」
毎食リィの空腹を満たす量を作ったとしても、そんな金額になるわけがない。
「余るようなら、他のことに使って構わない。それでも余ったら、それはお前のものだ。自由にしていい」
「──は?」
思わず目を剥いてしまった。
「仕事の給料は別に払う。それはあくまで生活費として使ってくれればいい」
「・・・・・・」
ズキズキとこめかみが痛む。
考えるのも面倒になって、とりあえず「分かった」と返事をしたら、ヴァンツァーはそれで納得したようだった。
+++++
もしあの男が『高い食材を使えば美味い料理になる』とでも考えているのならば、その考えを改めさせてやらなければならない。
安いからといって粗悪な品に手を出すのは愚の骨頂だが、新鮮で安い食材などいくらでもある。
在学中は学業が本分であり、ヴァンツァーの仕事の手伝いは頼まれたときだけ行うことになっている。
講義からの帰りにあれこれ食材を買い込み、『あの男の金銭感覚の矯正のため』という妙な闘志を燃やして夕飯の準備をするのが日課だった。
好みが分からないから、当初は当たり障りのないメニューを選んだ。
それでも、無表情なあの男が、料理を口に運んだ瞬間、ほんの少し目を瞠って見せる。
ふふん、とせせら笑ってやりたい気分になるのをひた隠し、味はどうか、と訊いた。
「美味い」
と返ってきた少ない言葉の中には、確かに感嘆の色があった。
甘味は好まない男だから、デザートを出せないことが何より悔しかった。
料理はもちろん、菓子作りにもそれなりの自信がある。
頭の中は数百のレシピで溢れており、その腕を発揮出来ないことが残念だった。
それでも、目の前で自分の手料理を食べる男の姿に、ほんの少しだけ感動した。
「いきなり口に運んで。毒が入っているとは思わないのか?」
揶揄するように訊けば、不思議そうな瞳で見つめ返された。
「依頼を受けたわけでもなく、何の利もないお前が、俺の食事に毒など混ぜてどうする」
「さぁ──金目当てかもな」
そんな風に言えば、目の前の美貌にゆっくりと笑みが浮かんだので、思わず凝視してしまった。
「欲しければ、全部くれてやる」
「・・・・・・」
その言葉通り、この数日後にはヴァンツァーの持ち物のほとんどが私の名義に書き換えられたのを知ったのは、随分とあとのことだった。
もちろん激怒して、すぐ元に戻させた。
+++++
ある日、おもむろに通帳を手渡された。
「これは?」
「お前用に、給与の振込口座を開設した。仕事の給与はそこに振り込むが、普通預金口座だからお前の好きなように使って構わない」
そうか、と頷いて受け取り、パラパラと通帳を捲って卒倒しかけた。
「──何だ、この金額は!」
「少ないか?」
「馬鹿か! 大卒初任給の相場の2倍近いぞ!」
「だから、少ないか?」
「どうしてそうなる! 多いに決まっているだろうが!」
「俺はそうは思わん」
「・・・は?」
「俺は雇用主として、従業員であるお前の仕事を正当に評価して報酬を設定した」
「・・・私はまだ半分学生だ。正規の給与を受け取る資格はない」
「振り込んだ金額は、アトリエでの仕事と、この家での仕事の両方に対する報酬だ」
「いえ・・・?」
わけが分からなくなって眉を寄せた私に、ヴァンツァーは当然のような顔で頷いた。
「お前は、アトリエでの仕事以外に、この家の家事全般を請け負っている。そこに報酬が発生するのは当然だ」
「・・・・・・」
「専業主婦の仕事を査定すると、年間1000万以上の報酬に値するという。今はまだ初任給の状態だからそこまで行かないが、評価が上がれば報酬もそれに応じる」
「・・・別に、家事は私が好きでしていることだ」
「お前の働きのおかげで、家政婦を雇う必要もない」
「食費は十二分にもらっている」
「あれは食費を含めた生活費であって、報酬ではない」
「だから」
「お前は、自分の技術を過小評価して安売りするのか?」
感心しないな、といった諭すような口調に、些かむっとした。
「もちろん、お前の本分は学業だ。それに支障が出るようであれば家のことは後回しで構わない。それも見越して報酬を考えている」
「・・・明日からまったく家事をせず、勉強だけしていても同じ事を言えるのか?」
「他の家事はどうとでもなるが、──出来れば美味い食事にありつきたい」
「・・・・・・」
どこまでも真剣な様子の男の顔に、思わず吹き出してしまった。
「・・・──承りました」
──あれから呆れるくらい長い時間が過ぎた。
まさかこんなにも長いことあの男と一緒にいることになろうとは、あのときは思ってもいなかったのだ。
食費は毎月決まった額を渡され、給与は年々上がっていった。
どちらも、当然相当な金額が残る。
時々それをあいつのために思い切り使って、あの男の澄ました顔が驚きに彩られるのを見るのが私の楽しみのひとつだというのは──本人にも内緒の話だ。
**********
まだデキてない頃のシェラとヴァンツァー。ヴァンツァーがすでにヘタレ臭いのはご愛嬌。
あの男と、一緒に暮らすことになった。
深い意味はない。
立場は雇用主と従業員であり、まだ連邦大学に在籍する学生である私の身分と業務効率の円滑化を慮り、あの男が提案してきたものだ。
「これを」
寮で使っていた手荷物の分量など知れていたが、それらを運び込んだ私に、あの男は1通の封筒を渡してきた。
封を開けてみてぎょっとした。
かなりの枚数の高額紙幣が入っていたのだ。
「・・・何だ、これは」
「当面の生活費だ」
「──は?」
「とはいえ、家賃は必要ないし、光熱費は口座から引き落とされる。それは食費と、他に必要なものがあったら買い足してくれて構わない」
「・・・・・・」
「もちろん、足りなければそう言ってくれ」
この男は生き返って学生を始めた当初から秀才の名をほしいままにしていたが、実は馬鹿なのかも知れない、とそのとき初めて思った。
「食費、だと?」
「あぁ」
「当面と言っていたが、何ヶ月分だ?」
「とりあえずひと月のつもりだ」
「この金額で?」
「足りないか?」
首を傾げる様子に、おそらく「足りない」と言えば同じ程度の金銭を渡してくるのだろうことが予想出来た。
優秀な成績で大学を卒業し、デザイナー兼企業の経営者となった男に、ため息混じりに教えてやった。
「──食費だけで月に30万だと? ふたりきりの世帯で、お前はどれだけ食べる気でいるんだ」
毎食リィの空腹を満たす量を作ったとしても、そんな金額になるわけがない。
「余るようなら、他のことに使って構わない。それでも余ったら、それはお前のものだ。自由にしていい」
「──は?」
思わず目を剥いてしまった。
「仕事の給料は別に払う。それはあくまで生活費として使ってくれればいい」
「・・・・・・」
ズキズキとこめかみが痛む。
考えるのも面倒になって、とりあえず「分かった」と返事をしたら、ヴァンツァーはそれで納得したようだった。
+++++
もしあの男が『高い食材を使えば美味い料理になる』とでも考えているのならば、その考えを改めさせてやらなければならない。
安いからといって粗悪な品に手を出すのは愚の骨頂だが、新鮮で安い食材などいくらでもある。
在学中は学業が本分であり、ヴァンツァーの仕事の手伝いは頼まれたときだけ行うことになっている。
講義からの帰りにあれこれ食材を買い込み、『あの男の金銭感覚の矯正のため』という妙な闘志を燃やして夕飯の準備をするのが日課だった。
好みが分からないから、当初は当たり障りのないメニューを選んだ。
それでも、無表情なあの男が、料理を口に運んだ瞬間、ほんの少し目を瞠って見せる。
ふふん、とせせら笑ってやりたい気分になるのをひた隠し、味はどうか、と訊いた。
「美味い」
と返ってきた少ない言葉の中には、確かに感嘆の色があった。
甘味は好まない男だから、デザートを出せないことが何より悔しかった。
料理はもちろん、菓子作りにもそれなりの自信がある。
頭の中は数百のレシピで溢れており、その腕を発揮出来ないことが残念だった。
それでも、目の前で自分の手料理を食べる男の姿に、ほんの少しだけ感動した。
「いきなり口に運んで。毒が入っているとは思わないのか?」
揶揄するように訊けば、不思議そうな瞳で見つめ返された。
「依頼を受けたわけでもなく、何の利もないお前が、俺の食事に毒など混ぜてどうする」
「さぁ──金目当てかもな」
そんな風に言えば、目の前の美貌にゆっくりと笑みが浮かんだので、思わず凝視してしまった。
「欲しければ、全部くれてやる」
「・・・・・・」
その言葉通り、この数日後にはヴァンツァーの持ち物のほとんどが私の名義に書き換えられたのを知ったのは、随分とあとのことだった。
もちろん激怒して、すぐ元に戻させた。
+++++
ある日、おもむろに通帳を手渡された。
「これは?」
「お前用に、給与の振込口座を開設した。仕事の給与はそこに振り込むが、普通預金口座だからお前の好きなように使って構わない」
そうか、と頷いて受け取り、パラパラと通帳を捲って卒倒しかけた。
「──何だ、この金額は!」
「少ないか?」
「馬鹿か! 大卒初任給の相場の2倍近いぞ!」
「だから、少ないか?」
「どうしてそうなる! 多いに決まっているだろうが!」
「俺はそうは思わん」
「・・・は?」
「俺は雇用主として、従業員であるお前の仕事を正当に評価して報酬を設定した」
「・・・私はまだ半分学生だ。正規の給与を受け取る資格はない」
「振り込んだ金額は、アトリエでの仕事と、この家での仕事の両方に対する報酬だ」
「いえ・・・?」
わけが分からなくなって眉を寄せた私に、ヴァンツァーは当然のような顔で頷いた。
「お前は、アトリエでの仕事以外に、この家の家事全般を請け負っている。そこに報酬が発生するのは当然だ」
「・・・・・・」
「専業主婦の仕事を査定すると、年間1000万以上の報酬に値するという。今はまだ初任給の状態だからそこまで行かないが、評価が上がれば報酬もそれに応じる」
「・・・別に、家事は私が好きでしていることだ」
「お前の働きのおかげで、家政婦を雇う必要もない」
「食費は十二分にもらっている」
「あれは食費を含めた生活費であって、報酬ではない」
「だから」
「お前は、自分の技術を過小評価して安売りするのか?」
感心しないな、といった諭すような口調に、些かむっとした。
「もちろん、お前の本分は学業だ。それに支障が出るようであれば家のことは後回しで構わない。それも見越して報酬を考えている」
「・・・明日からまったく家事をせず、勉強だけしていても同じ事を言えるのか?」
「他の家事はどうとでもなるが、──出来れば美味い食事にありつきたい」
「・・・・・・」
どこまでも真剣な様子の男の顔に、思わず吹き出してしまった。
「・・・──承りました」
──あれから呆れるくらい長い時間が過ぎた。
まさかこんなにも長いことあの男と一緒にいることになろうとは、あのときは思ってもいなかったのだ。
食費は毎月決まった額を渡され、給与は年々上がっていった。
どちらも、当然相当な金額が残る。
時々それをあいつのために思い切り使って、あの男の澄ました顔が驚きに彩られるのを見るのが私の楽しみのひとつだというのは──本人にも内緒の話だ。
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まだデキてない頃のシェラとヴァンツァー。ヴァンツァーがすでにヘタレ臭いのはご愛嬌。
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